【前回記事続き】「最初の3年を取り崩さない」だけで資産寿命はどう変わる?現金余力の効果と見えてきた新たな不安

前回の記事では、資産取り崩し期において「最初の数年間に暴落が来ると、その後の資産寿命が急速に縮んでしまう」という「シーケンス・オブ・リターン・リスク」について解説しました。
そして、その対策のひとつとして挙げたのが「現金余力(キャッシュクッション)を持っておき、暴落時は資産を取り崩さずに現金から生活費を出す」という手法です。
では、実際にこの対策をとると、シミュレーション結果はどれほど変わるのでしょうか?今回は、その点についてシミュレーションしてみました。
前回のおさらい
まずは簡単に前回のシミュレーションのおさらいをしておきます。
2000年〜2019年のS&P500(トータルリターン・米ドルベース)の実データを使って、以下の条件でシミュレーションを行いました。
条件設定
- 初期資産:5,000万円
- 取り崩し:毎年年初に200万円(初期資産の4%)を定額取り崩し
- 20年間の平均リターン:約6.1%(幾何平均)
シミュレーションは3パターンで行いました。まず「歴史通りの順番(パターンA)」、次に「騰落率の順番を完全に逆にした順番(パターンB)」、それと「幾何平均の6.1%(パターンC)」を比較。当然どれも20年間の平均リターンは「6.1%」で全く同じです。
詳細は前回の記事に譲りますが結果のグラフは次の通りでした。

同じ平均リターンでも順番が変わるだけでこれだけの差が生まれるというのがよくわかる結果になりました。特に歴史通りの順番(パターンA)では、1度も最初の5,000万を回復できずに20年後を迎えました。リーマンショックの時は資産が半減して2,000万程になっています。そういう状況で資産を取り崩すのは相当つらいと容易に想像ができます。
【検証結果】3年間の現金クッションでどう変わったか?
パターンAはITバブルの崩壊で最初の3年間は連続してマイナスになった年でした。では、その3年間は資産を取り崩さず、用意しておいた3年分の現金余力600万を使って生活した場合、資産にはどんな変化があるか。それが今回のメインテーマです。
以下のピンク色のセルについては資産を取り崩さず年末残高がそのまま翌年の年始の値になっています。それ以降は毎年年始に200万取り崩しています。


それぞれのパターンでグラフの形だけを見ると大きな変化はないように感じてしまうので、違いが分かりやすくなるように、パターンAの検証前と後だけをグラフ化してみます。

どうでしょう。グラフの形状に大きな差はないものの20年後の資産残高には大きな差が生まれました。その額、なんと約2,170万!
600万の現金余力が20年後にそれだけの価値を生んだということになります。
他のパターンでも当然20年後の資産残高は増えていますが、一番効果があるのはパターンAでした。(下表参照)やはり、暴落時の現金余力を使った対策は効果がありそうです。

シミュレーションで見えた新たな不安
暴落時に現金余力を使った対策は効果がありそうですが、最近の相場は好調ですよね。だから、実際に現金余力を使ってという人は多くないかもしれません。Xでもここ数年でFIREした人から、FIREしても資産が増えているという声をよく聞きますが、これは相場環境がよく先ほどのシミュレーションでいうパターンBの前半に近い状態だと思います。しかし、資産が大きくなるほど暴落時のダメージも大きいものになります。
もう一度グラフを見てみてください。20年後の資産残高が一番多いのはパターンBですが、資産のブレが大きいのが気になります。資産が2億辺りまで行くこともあるけど暴落がくると資産は急降下。結果的にみれば初期資産の5,000万を下回ることはないですが、暴落時の資産の激減を前に精神状態は穏やかではないはずです。
また、途中で資産が増えると気持ちが大きくなって生活水準を上げてしまっているかもしれません。最初は200万で生活していたけど、2億もあれば400万ぐらいの生活でもいけるんじゃないかと。もし、そういう生活をしていたらパターンBの20年後の資産はもっと少なくなっているはずです。
大きな資産を持つということ
暴落が来て資産が半分になってしまったとします。5,000万の資産であれば2,500万に、2億の資産であれば1億に。割合で考えればどちらも同じですが、金額で見たら違いは歴然です。
大きな資産を持つということは、このようなリスクに晒されているということを頭に入れておかないといけません。
資産形成期は資産の最大化が目的ですが、資産が出来た後は資産の最大化を捨て、その資産をどう守っていくかが大事になります。その一つが今回の現金余力でもありますが、今回見たように現金余力だけでは資産のボラティリティを抑えることはできません。
となると、やはり分散投資が重要になってきます。ここでいう分散投資は株式の銘柄の分散ではありません。もっと大きな視点での分散です。株式、債券、リート、コモディティ、現預金などなど。レイダリオのオールウェザーポートフォリオのようにどんな相場が来ても立ち向かえるようにしておくことが、大きな資産を持つうえで大事になってきます。
ちなみに私はオールウェザーポートフォリオでありつつそこからの配当金分配金で生活するところを目指しています。
まとめ
パターンAのように暴落時の現金余力を使った対策は効果があることが分かった一方で、前半は絶好調だったパターンBにも資産のボラティリティが大きいという別の不安材料も見つかりました。
実際の相場ではパターンCであることはありえません。パターンAやパターンBを繰り返しながら成り立っています。
いつかは来るであろう暴落に備えてその対策と心の準備をしておきましょう。











