「FIRE(早期リタイア)したら、4%ルールでインデックス資産を毎年取り崩して暮らせばいい」

FIREを目指している方なら一度は聞いたことがある言葉だと思います。
ただ、ほんとにそんなにうまくいくのか?
取り崩し期間中の平均リターンが4%以上であれば、本当に資産は枯渇しないのか?

そんな不安な気持ちを抱えているのも事実だと思います。

今回はその辺に焦点を当てた記事になります。

株式のパフォーマンスは長期で見れば右肩上がりというのは、過去の資産別の推移をみれば一目瞭然です。(下図参照)しかし、グラフは直線ではなく5年単位、10年単位で分けて見ていくと、その期間中の平均リターンがプラスの時もあればマイナスの時もあります。

FIREしたあと、今みたいに株価が右肩上がりの相場が続いてくれればいいですが、FIREした途端に下落相場に突入する可能性だってあるはずです。

もし、そういう相場になった時に4%ルールのまま資産を取り崩していっても本当にFIRE生活に問題はないのでしょうか?

今回は、2000年〜2019年の20年間の実際のS&P500データを使ったシミュレーションをしながら、下落相場から始まった場合の資産推移の検証と資産活用期を安心して生き抜くための具体的な対策について解説します。

衝撃のシミュレーション:同じ平均リターンでも「順番」でこれだけ差が出る

2000年〜2019年のS&P500(トータルリターン・米ドルベース)の実データを使って、以下の条件でシミュレーションを行いました。

条件設定

  • 初期資産:5,000万円
  • 取り崩し:毎年年初に200万円(初期資産の4%)を定額取り崩し
  • 20年間の平均リターン:約6.1%(幾何平均)

シミュレーションは3パターンで行います。まず「歴史通りの順番(パターンA)」、次に「騰落率の順番を完全に逆にした順番(パターンB)」、それと「幾何平均の6.1%(パターンC)」を比較します。当然どれも20年間の平均リターンは「6.1%」で全く同じです。

それでは結果をご覧ください。

20年間の資産残高比較

なぜ平均6.1%のリターンなのに元本割れするのか?

平均年率6.1%のリターンがあり、取り崩し率は4%です。一見すると資産は増えていくはずですが、パターンA(現実)の結果はスタート時の5,000万円を下回る4,326万円で着地しました。一方、順番を逆にしたパターンBでは1億円を突破しています。

これが「シーケンス・オブ・リターン・リスク(リターン順序のリスク)」です。

1. 序盤の暴落で「卵を産む鶏(株数)」が激減する

パターンAでは、リタイア直後の3年間(2000〜2002年)にITバブル崩壊が直撃し、資産が2,702万円まで減りました。

安くなった株価で「200万円の生活費」を得るためには、通常よりも大量の株(口数)を売却せざるを得ません。

2. その後に相場が急回復しても、波に乗れない

一度売って減ってしまった株数は二度と戻りません。2010年代に入って米国株が歴史的な大高騰(年率20〜30%の上昇)を見せても、元本(株数)自体が小さくなりすぎていたため、資産の回復速度が追いつかなかったのです。

学術的な「平均値」と、私たちの一度きりの人生

論文やバックテストで語られる「長期平均リターン7%」や「4%ルール」は、人生が何千回もやり直せる集団データの平均値に過ぎません。

しかし、私たちのFIRE生活・人生はたった1回きりの勝負です。

「長期で見れば右肩上がりだから大丈夫」というのは資産形成期だから許される考え方であり、活用期に入ると「活用期の最初の5〜10年にたまたま大暴落が来たらどうするか?」という想定をしておかなければなりません。

FIREするとき誰しも資産推移のシミュレーションはすると思います。その時するシミュレーションは先ほどのパターンCではないですか?
当然未来の相場がどうなるかなんて誰にも分かりませんから、平均リターンでシミュレーションするのが普通かもしれません。

しかし、実際には毎年のリターンはバラバラ。先ほどのように最初の方に暴落相場がくる可能性だってあるかもしれないということを頭に入れておかなければなりません。

活用期を穏やかに生き抜くための「2つの処方箋」

先ほどのシミュレーションで、もしかしたら、元本割れはしているけど20年間で資産は枯渇してないなら問題ないと考えられる方もいらっしゃるかもしれませんが、資産が著しく減っている中での取り崩しは精神的に相当堪えると思います。

そこでシーケンス・オブ・リターン・リスクを回避し、暴落が来ても平穏な日常を維持するためのアプローチは2つ紹介します。

【対策1】現金クッション(生活防衛資金)をしっかり確保する

【対策2】「取り崩し」ではなく「インカム狙い(配当生活)」のポートフォリオにする

対策1:2〜3年分の「現金クッション」を保持する

以前の記事で定額売却と定率売却についてのときにも同じ対策を書きましたがやはりある程度の現金余力というのは暴落相場のときの強い味方です。

資産寿命を最大化する!『60代からの資産使い切り法』に学ぶ「定率取り崩し」と「収益率配列のリスク」 先日久しぶりに図書館に行ってみました。目当ての本は貸し出し中で借りられなかったのですが、ウロウロしていたら今回紹介する本である野尻哲史...

具体的には株式資産とは別に、2〜3年分の生活費を現金などで確保しておきます。

下落相場が来たら株の取り崩しとのバランスを見ながら、この現金から生活費を補填します。こうすることで、相場が回復するまでの間、安値で株を売却することを避けることができます。もしさらに余力があれば買い増すこともできます。

対策2:インカム重視(配当・分配金型)のポートフォリオにする

そもそも「毎年取り崩す」という行為そのものをなくし、株式やETFから生み出される配当金・分配金である程度生活費を賄う構造を作ります。インカム投資の特徴は、

  • 株数が減らない:株価が50%暴落しても、保有株数は1株も減りません。
  • 心理的ストレスゼロ:毎月・毎四半期に自動的に現金が入るため、暴落期に「売却ボタン」を押す恐怖と戦う必要がありません。
  • 配当の強固さ:株価は短期間で30〜50%乱高下しますが、企業の配当(特に連続増配株や高配当ETF)は株価ほど大きく落ち込みません。

もちろんこのスタイルでも暴落時に減配や無配になる可能性もあります。そのためこの対策を取る場合でも先ほどの現金余力はある程度確保しておくのが得策です。暴落時に高配当株を買うことでインカムを増やすことも出来ますし、相場が回復した時は含み益ができキャピタルゲインを得るチャンスも生まれます。
それと、景気敏感株では減配や無配の可能性が高めですが、ディフェンシブ株は業績が景気に左右されにくいのでこういうときでも配当を維持してくれる可能性が高いです。私も今保有している配当目当ての個別株は通信株などのようなディフェンシブ株の割合が多めになっています。

まとめ:資産の「拡大」から「人生の安定」へ

資産形成期において最優先すべきは「資産の増大(キャピタルゲイン)」でした。しかし、FIRE後の活用期において最優先すべきは「資産の保全と心の平安(持続可能性)」です。

  1. 平均リターンの罠に惑わされない(リターンの順番がすべて)
  2. 相場環境に左右されない現金余力(クッション)を持つ
  3. 株数を減らさないインカム型(配当金)ポートフォリオを活用する

「数字上のリターン効率」を追い求めるあまり、暴落期に怯えながら過ごすのは本末転倒です。リスク構造を正しく理解し、どのような相場が来ても笑って過ごせるポートフォリオを準備していきましょう。